ペスト

強毒性の鳥インフルエンザの感染が人の間でもひろがるかもしれなくて、それは時間の問題であると、ニュースなどで耳にする。それで、個人的な心構えを得られるかもと、いままで未読であったカミュの「ペスト」を読む。「ペスト」は、題名の疫病が発生して封鎖されたアルジェリアの町、オラン市を舞台に、人々の戦いを描いたノンフィクションチックな小説。

市から発表される日ごとの死者数が、天気予報がアナウンスする最高気温のように響くという状況の中で、医師リウーは、無償で診療を続け、一人でも多くの患者を救うべく、友人と協力して保健隊を募っている。ランベールは仕事でオランに滞在していて、その最中に町が封鎖されてしまった新聞記者。故郷にいる愛人の元へ帰りたい一心でに違法な手段に訴え、彼は町を出て行こうと奔走する。そんなリウーとランベールの、次の対話シーンがもっとも印象深かった。

「僕はたとい何者のためにでも、君が今やろうとしていることから君を引きもどそうとは思いません。それは僕にも正しいこと、いいことだと思えるんです。しかし、それにしてもこれだけはぜひいっておきたいんですがね――今度のこと*1は、ヒロイズムなどという問題じゃないんです。これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」
「どういうことです、誠実さっていうのは?」と、急に真剣な顔つきになって、ランベールはいった。
「一般にはどういうことか知りませんがね。しかし、僕の場合には、つまり自分の職務を果すことだと心得ています」

「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さ」
僕自身はこれまでの人生で、「誠実さ」をあまり大事にしてこなかったし、誠実であることがどういうことかも考えてこなかった。ひとまずは、学校周りの職場の中で、何が出来るか考えてかければならないが、いったい何が出来るだろう。学内で相当な割合の人が死亡するというような最悪の状態になっても、自分だけが助かろうと逃げ出すようなことはしない、というところでしょうか。当たり前か。

*1:保健隊結成のこと