旅的要素

僕の職場である学校の近くを、東北新幹線の高架が走っている。朝、自転車にのって職場へ向かう道すがら、南へ疾駆する新幹線をよくみる。その車内にゆったり座っていて、これからどこか旅行へ出かけようという人達がうらやましい。できることなら僕も、仕事を打っちゃって、どこかへ出かけてしまいたい。しかし、実際に列車に乗って、窓越しに自分の職場を眺めても、それほど愉快な気分にはなれないのである。
 往々にして、空想の旅は心地よく、現実の旅はそれを下回る。有名な名所には、観光客から金をせびろうとする様々な商売がうようよしていて、居心地が悪かったりする。また、観光地にはそこでしか食べることが出来ない「ご当地」名物があって、それらは美味しく、食べなければ来た意味がないなどという考えは、殆ど間違いである。

 それでも旅にあこがれる。自分の一方的な趣味のことで恐縮ではあるけれど、僕は映画の中でも旅的な要素を含むものが、とくに好きです。この「旅的要素」のニュアンスはすこし微妙で、
「のっぴきならない理由が生じ、突然に日常生活を断ち切り旅に出る」
という要素である。とくに夜、翌朝は仕事があるけれど突然どこかへ出かけてしまう、と言ったものに惹かれる。
「そんなに日常に不満なのか」
とお思いになるかもしれませんが、どんなに充実していたとしても、やっぱり日常は日常なのです。